表紙 障害者のためのスポーツ施設・好事例集 2014神奈川県 Sports for Disabilities はじめに 障害者の方々を取り巻く環境は、大きく変わってきました。住み慣れた地域で安心して自分らしく生活する、という事を目標に、いわゆる「福祉の街づくり条例」の制定に全国の自治体が積極的に取り組むようになってから、20年ほどが経過しようとしています。 まだまだ、安心して街に出ることはできないよ、という声も聞こえてきますが、その取り組みによって、多くの障害者が社会に参加できるようになったのも確かです。 その後、措置制度から支援費制度、障害者自立支援法、障害者総合支援法と、障害者の生活を支える法律も大きく変貌を遂げています。 平成25年度も終盤を迎えた時期に、国連の障害者権利条約も批准されました。これに先立ち、障害者虐待防止法が成立し、障害者差別解消法も全面施行が待たれています。 一人ひとりに個性を持つ、全ての障害者の方の地域生活を完全に豊かにしてみます、とはなかなか言えないことです。けれど、県民すべてが障害者の事を理解し寄り添うことで、実現は可能なのだと考えます。 そのため、今回、生活に潤いを与えるスポーツ施設のバリアフリーなどの配慮に努めている事例を調査し、使いやすくなる工夫などの事例を取りまとめました。 併せて、障害者スポーツについての紹介をさせていただいております。 この事例集により、障害者のスポーツ環境が少しでもより良いものとなることを期待します。 目 次 沛瘧Q者に優しいスポーツ施設 1.施設利用のためのアクセスの確保・・・P2 A.駐車場・敷地内通路 B.玄関・出入口 C.廊下 D.エレベーター 2.障害者の利用に配慮した施設・設備・・・P6 A.受付・カウンター B.トイレ C.シャワー室 D.更衣室・ロッカールーム E.観覧席 3.スポーツを楽しむための工夫・・・P9 A.水泳 B.ボウリング C.ボルダリング(クライミングジム) D.フィジカル・トレーニング  障害者スポーツを知る 1.障害者スポーツ大会の歴史・・・P12 〜全国障害者スポーツ大会とパラリンピック〜 2.障害者スポーツの紹介Part1(全国大会正式種目)・・・P13 3.障害者スポーツの紹介Part2(全国大会オープン種目)・・・P19 4.障害者スポーツを支える・・・P23 @チェアスキー開発物語  A競技審判として関わって 。 ご協力施設一覧・・・P27 2ページ 氈@障害者に優しいスポーツ施設 神奈川県では、障害者等が自らの意思で自由に移動し、社会参加することができるバリアフリーのまちづくりを目指して平成8年に「神奈川県福祉の街づくり条例」を施行し、だれもが住みよいまちづくりを進めてきました。平成20年には、少子高齢化の進行やバリアフリー法の制定など社会状況の変化に対応するため、「神奈川県みんなのバリアフリー街づくり条例」と改正されました。面積が1,000平方メートル以上のスポーツ施設も条例によって整備対象とされているところです。 ここでは、民間のスポーツ施設が、障害者の方々の使いやすく整備されている事例や工夫されている事例を紹介します。 より多くの障害者が利用できるよう、活用してください。 1.施設利用のためのアクセスの確保 各地域で「福祉の街づくり」の取り組みが進み、障害のある方々が外出する際にも、利用に配慮した駅舎や交通機関が整備されるなど、公共交通での移動が楽になって来ています。 しかしながら、スポーツ施設の多くは規模も大きくなることから、駅の隣接地域に設置されるよりも郊外に設けられることが多いようです。そのため、障害のある方々がスポーツ施設を利用する場合には、自宅からスポーツ施設までの移動手段として車を利用する方を多く見かけます。 ここではまず、車いす等の利用者に配慮された駐車場と、駐車場から施設内までの安全な経路についてみてみましょう。 A 駐車場・敷地内通路 障害のある方々は、自ら車を運転する方もいらっしゃいますし、リフト付きの車両で移動される方もいらっしゃいます。そのため、駐車場は、車いすでの乗降がスムーズにできるように、幅の広い駐車区画(※)や、乗降スロープを設置できるようなスペースが確保されていることが必要になります。 また、駐車場から玄関までの移動にも配慮しないと、駐車場は作ったけれど施設の入り口にたどり着けない、ということにもなりかねません。 ※「神奈川県みんなのバリアフリー街づくり条例」の整備基準では、駐車スペースの幅は350cm以上が望ましいとされています。 《障害者用駐車スペース:屋外(多数整備されている事例)の写真2枚あり》〜ここまで2ページ 3ページ 大きなスポーツ施設のため、「国際シンボルマーク」(いわゆる、車いすマーク)の表示のある障害者用駐車場スペースも9台と多く確保されています。 一般車両の無断駐車を防ぐためのカラーコーンは、効果がありますが、駐車する場合に移動しなければならないため、ともすれば不便な物になってしまいます。しかし、この施設のように、入口で利用を告げると係員が移動させる仕組みになっていますので、駐車もスムーズに行えます。 また、駐車場からスロープになっている歩道橋も整備されている為、玄関まで一人でも移動できます。 《障害者用駐車スペース:屋内及び屋根付の写真2枚あり》 障害者用駐車スペースで、障害者が一番いいと考えているものは、建物の入り口に近くて、雨が降っても濡れることがないものでしょう。 車いすの乗降の場合は、時間がかかる場合がありますので、屋内駐車場や屋根付駐車場は、天候に左右されることなく利用できます。 《駐車スペース:幅の広い場合の写真2枚あり》 身体障害者用の駐車スペース表示がない場合であっても、幅が広く確保できている駐車スペースであれば、車いす利用者でも安心して駐車できます。    B 玄関・出入口 ユニバーサルデザインの浸透により、新しく建てられた建築物の入口は、道路面から段差無く入れるものが増えてきています。雨水が室内に入るのを防ぐなどの目的で段差が設けられている場合でも、バリアフリーとするために、勾配に配慮したスロープを設置することで、スムーズにアクセスすることができます。 《玄関正面に設けられたスロープの写真2枚あり》 入口全体をカバーする幅のスロープは、視覚障害者の方や車イス使用の方も安心して利用出来ます。 なお、扉の幅は90B以上が望ましいとされています。 《玄関横から設置された長い距離のスロープの写真1枚あり》〜ここまで3ページ 4ページ 玄関に3段の段差があります。そこにスロープを設置すると急勾配になり、勾配を緩くすると設置する長さが足りません。そこで、スロープを玄関横に付けることで、距離が長くとれ、勾配も緩やかになりました。車イスやベビーカーを使用している方も安心して利用する事ができます。 《建物に沿って設置されたスロープの写真1枚あり》 これも、建物に沿って設置された、距離を長くとった緩やかな勾配のスロープです。当初は、孫がスポーツを頑張っている姿を見るために訪れた高齢者のために整備された、というお話を伺いました。今では車イス等を使用している方も安心して利用されているようです。 《スロープ板を設置した事例の写真1枚あり》 玄関に階段が一段あります。段差がそれほどないため、鉄製のスロープ板を設置しても勾配が急にならないため、車イス等を使用している方も安全に利用しています。この方法だと、全体をスロープ化するよりも安価に改修できます。 《室内の出入口:両開きの事例の写真2枚あり》 室内にある出入口です。泥汚れや雨水の侵入の心配がないため、通路からの段差はありません。ドアがスライド式で両開きになっているため、開閉は容易で(写真上は自動手動)、また、幅も90Bを大幅に上回る広さのため車イスの方も通りやすくなっています。 C 廊下 廊下は、部屋と部屋を結ぶ通路ですから、安全に通行できることが必要です。基準では、幅120B以上、段を設けない、滑りにくい材質等が求められています。 それ以外にも、視覚障害者誘導用ブロック(通称:点字ブロック)の敷設や手すりの設置等、障害者の方が安全に移動できるよう整備をする必要があります。 《廊下に設置された手すりの写真1枚あり》 歩行を補助するために、廊下には手すりが設置されています。 この事例の場合は、それほど急なスロープではないのですが、手すりを設置することにより、高齢者の方や歩行が困難な方が安心して歩行できるよう整備されています。 子供の利用者が多い施設の場合は、大人用だけでなく、大人用より低い位置に子供用の手すりも設置されることがあります。 5ページ 《通路に敷設された視覚障害者誘導用ブロックの写真1枚あり》 視覚障害者が一人で移動する場合には、床面に視覚障害者誘導用ブロックを敷設することが有効です。 このボウリング場の事例では、入口から投球場まで敷設されています。棒状のブロックは誘導用ブロックといい、進む方向を示しています。天井のブロックは警告ブロックといい、段差の手前や方向を変える場所に敷設します。 D エレベーター 車いす使用の方々や歩行に困難のある方々が、二階建て以上の施設を上下に移動する場合には、エレベーターやエスカレーターがないと、せっかく立派な施設であっても、利用できないということになりかねません。 特に、車いすの方々にとっては、エレベーターがあることが利用の目安となります。 基準では、出入り口の幅は80B以上、内部の幅は140B以上が望ましいとされています。 《幅の広いエレベーターの写真2枚あり》 これだけの幅があると、車いすの乗降も楽にできます。 《エレベーター操作盤の写真1枚あり》 操作ボタンの下に点字表記があり、また、階数などを知らせる音声案内もついているので、視覚障害の方も安心して利用できます。 《荷物用エレベーターの活用の写真1枚あり》 障害者の利用に配慮したエレベーターと併せ、幅の広い荷物用エレベーターを活用する事で、複数の経路を確保しています。 過去、幅の狭い乗用エレベーターしかない施設で、車いすが載れる貨物用エレベーターの利用をお願いした時に、障害者の人権を無視した扱いではないか、という議論もありました。ここでは、選択肢として活用しています。 6ページ 2.障害者の利用に配慮した施設・設備 福祉施設であれば、施設全体が障害者の利用を前提としていることは当たり前ですが、スポーツ施設では、障害者一人ひとりのニーズに合った整備をすることは、なかなか難しいかもしれません。 施設全体が障害者にとって利用しやすいものであることが望ましい事は言うまでもありませんが、工夫次第で利用できる施設に変えることもできます。 ここでは、当初から障害者の利用に配慮して整備した事例だけでなく、工夫によって障害者が使いやすくなっている施設・設備の事例も紹介します。 A 受付・カウンター 受付での申込用紙記載などは、短時間で済むことが多いため立ったまま行うことが多いようですが、車いすの方や、椅子に座って受付したほうが楽にできる人に配慮した高さのカウンターなどが必要になります。 《高さに配慮した記載台の写真1枚あり》 車いすの方も、楽に申込用紙を記載できる高さになっています。また、柱に「お申込用紙」という表示がされているため、遠くからでも記載場所の確認ができます。 《既存の設備・備品を活用した記載台の写真1枚あり》  受付全体が低くなっていなくても、荷物置き台の幅を広くすることにより、車いすの方が利用しやすい受付テーブルとなっています。ちょっとした工夫でできるバリアフリーの事例です。 《既存の設備・備品を活用した記載台の写真1枚あり》  受付の前にテーブルを置くことで、車いすの方が使いやすくなっています。このテーブルは、高さも調整できます。 B トイレ 誰でも、外出先で一番心配するのがトイレではないでしょうか。 スポーツ施設が、障害者の方にも使いやすいものであるためには、どのような障害があっても安心して容易に使えるように整備されているトイレが必要です。最近では、いわゆる車いすトイレに、オストメイト用の洗浄装置が設けられたトイレも多く見られるようになってきました。 神奈川県の整備基準では「みんなのトイレ」として、@出入口の幅80B以上、A車いす使用者が円滑に利用できる扉や空間、B分かりやすい表示 C乳幼児用ベッド・いすの設置 などが定められています。 《障害者対応トイレの写真1枚あり》 女性用・男性用のそれぞれのトイレに、障害者対応トイレが設けられています。トイレの入口には、分かりやすいようにそれぞれの表示があります。 〜ここまで6ページ〜 7ページ 《障害者対応トイレ内部の写真1枚あり》 トイレの中には、肢体障害者に配慮した手すりが多く設けられています。中央には、ストマ装具の洗浄装置があります。また、非常時の押しボタンだけでなく、洗浄ボタンも分かりやすいように大きく表示されています。                  《障害者対応トイレのピクトグラムの写真1枚あり》 入口のピクトグラムで、障害者だけでなく、乳幼児連れにも配慮されたトイレであることが判ります。 C シャワー室 スポーツの後に、汗を流してさっぱりできる施設が整っていると、うれしいものです。もちろん、車いす利用者の方々などの障害に配慮した設備が工夫されていることが大切です。 《障害者に配慮されたシャワー室の写真1枚あり》 洗面所の隣にシャワー室があり、床もフラットで続いています。入口には、水はけ用にグレーチングが施してあります。またシャワーの調整やシャワーヘッドも低い位置にあり、使いやすい構造となっています。 D 更衣室・ロッカールーム 《ロッカールームの写真1枚あり》 段差無く入れるロッカールームは、車いす利用者も使いやすいように広いスペースが確保されており、部屋の中には各自が利用出来るロッカーが整備されています。 《会議室の写真2枚あり》 会議室として整備されていますが、営業時間中は会議の開催は無いため、更衣室・荷物置き場・休憩室として活用されています。 8ページ スポーツ施設を利用するという事は、自らスポーツを行うだけでなく、力一杯行われている競技の様子を観覧する、という事もあります。 駐車場や玄関から観覧席までスムーズに移動できることや、夏の暑い日差しなどを遮るなど屋根などの配慮の他、ベンチがあれば足の不自由な方でも安心して利用ができます。 《屋外観覧席の写真1枚あり》 屋根とベンチがあると、日差しを気にせず座って観戦できます。 《屋外観覧席の写真1枚あり》 駐車場から観覧席までスロープがあるため、車いすの移動も安心です。 9ページ 3.スポーツを楽しむための工夫 障害者の身体状況等に合わせて作られたスポーツもありますが、既存のスポーツを障害者が楽しむためには、そのスポーツ種目のルール変更や、用具や備品を障害に合わせて整備することが必要になります。 ここでは、いくつかのスポーツを取り上げて、特徴的な障害者への支援の工夫を取り上げてみます。 A 水泳 水中では浮力があるため、身体等に障害があってもある程度自由に動くことができるので、スイミングが広く行われています。リハビリテーションにも有効とされています。 安心に自由に水泳を楽しむための工夫を紹介します。 《プールサイドを移動するための専用車いすの写真1枚あり》 プールサイドの移動には、自分の車いすから専用の車いすに乗り換えてもらうことになります。タイヤの汚れを持ち込まないことや、塩素で車いすがさびないように配慮しているためです。 《プール入水用の車いすの写真1枚あり》 水に濡れても大丈夫なように、全てプラスチックとビニールで作られた車いすが用意されており、プールに設けられたスロープを使って、座ったままで入水することができます。 《スロープや手すりの設置(屋外プール)の写真1枚あり》 安全に入水できるよう、幅の広い階段と手すりが設けてあります。 《スロープや手すりの設置(屋外プール)の写真1枚あり》 プールに入水するためのスロープが長く設置してあるため、専用車いすに乗ったまま一人での入水も容易にできます。 《プールサイドと水面のフラット化の写真1枚あり》 障害のある方にとって、プールに飛び込むことは危険が伴うこともあります。 この例のように、プールの水面とプールサイドの段差がほとんど無いように工夫されているので、プールサイドに腰かけたまま入水することができると安全です。 さらに、入水する場所の水中には踏板(茶色の部分)も設置されているので、いきなり深く沈むことが無いので安心して入水できます。 10ページ B ボウリング 障害者の国体種目にもなっているボウリングは、子どもから高齢者まで、幅広く楽しむことのできるスポーツです。 独力での投球が難しい障害者の方でもスムーズに投球ができる投球補助台など、身近なスポーツとして様々な工夫がされています。 《投球補助台の写真1枚あり》 ボールを投球補助台の上に置き、投球コースを狙い定めて転がします。力の無い方など、自力で投球することが難しい方でも楽しめます。この投球台は、利用者に楽しんでもらうために、スタッフが絵を描きました。 《投球補助台の写真1枚あり》 色とりどりの投球台の上には、ボールが勝手に転がらない様に窪みが設けられています。 《レーザー式投球台の写真1枚あり》 視覚障害者に楽しんでもらえるように工夫された投球台です。レーザーを当てて投球方向を確認してから、自転車のブレーキのようなレバーを引くと、ストッパーが下りてボールが転がり落ちる仕組みになっています。 《ガーターにボールが落ちないレーンの写真1枚あり》 ボールがガーターに落ちない様に、柵(ゴム製のロープ)が上がってくるレーンがあります。こうすることで、力の弱い方や、どうしても真っ直ぐ投げられない方でも、楽しむことができます。 《段差の解消の写真2枚あり》 ボウリングの投球ゾーンは、一段高くなっています。常設のスロープを設置することは難しいため、段差を解消するために持ち運びできるスロープを手作りしました。 C ボルダリング(クライミングジム) 自然の岩や石をロープなどの器具を使わないで上るスポーツをボルダリングといいます。そこまで出かけるのが難しい方や練習場としてクライミングジムがあります。 自分の身体一つでできるスポーツなので、子どもから大人まで人気があります。視覚障害の方や知的障害の方なども多く楽しまれているようです。 〜ここまで10ページ〜 11ページ 《コミュニケーションツールの工夫の写真1枚あり》 知的障害の方や子供達にもわかりやすいように、絵や文字を使ったコミュニケーションツールを手作りしています。 《突起部分のコミュニケーションボードの写真1枚あり》 初心者でも上りやすいように、突起にコミュニケーションボードを設置して、ホールドする順番を指示しています。 《マグネットボードの写真1枚あり》 視覚障害者の方が楽しめるように、マグネットボードで、ホールドする突起やくぼみなどの位置を事前に知ることができます。 D フィジカル・トレーニング 街中でフィットネスクラブをよく見かけます。トレーニングメニューは、一人ひとりの体力等に合わせて作られることが多いようなので、障害者の方も気軽に楽しむことができます。 《車いすで利用できる相談室の写真1枚あり》 個人のトレーニングメニューを決めるために相談室が用意されています。車いすでも利用ができます。 《メディカルチェック機器の写真1枚あり》 トレーニングの前に、血圧等のチェックができる機器が用意されていると安心です。 《個別プログラムで対応可能の写真1枚あり》 サスペンショントレーニングは、個別プログラムで行うので、車いす利用者でも無理なく行えます。 《トレーニング機器の写真1枚あり》 機器に座ることができれば、車いす利用者でも上肢のトレーニングが行えます。 12ページ  障害者スポーツを知る 「失われたたものを数えるな。残っているものを最大限に生かせ」。イギリスにある「ストーク・マンデビル病院」で世界で初めて障害者による競技大会を主催し、“障害者スポーツの父”と呼ばれるユダヤ系ドイツ人医師ルードヴィッヒ・グットマン卿の言葉です。この言葉から障害者スポーツはスタートしています。 障害者スポーツは、当初はリハビリテーションの一環として導入されたものですが、現在では障害者特有のスポーツも開発され、競技としての魅力も広がってきています。 健常者に負けないスピードで滑るチェアスキー、車イスの激しいぶつかり合いとタイヤの擦れる匂いが体育館に漂う、車イスバスケットボールや、ウィルチェアーラグビー等、障害者スポーツをみると、車イスや補装具が「体の一部」であることが良くわかります。 この章では、障害者スポーツの魅力や、それを支える人たちの思いをみなさんにお伝えします。 1.障害者スポーツ大会の歴史 @全国障害者スポーツ大会 国民体育大会終了後に同じ開催地で行われている全国障害者スポーツ大会は、障害のある方々の社会活動推進が主な目的となっており、パラリンピックなどの競技スポーツとは若干位置づけが異なります。 2001年に、それまで行われてきた「全国身体障害者スポーツ大会」と「全国知的障害者スポーツ大会」(愛称:ゆうあいぴっく)を統合した大会として開催されています。 成績を競う正式競技と誰でも参加できるオープン競技にわかれ、それぞれの障害に合わせた種目にチャレンジできます。 なお、「身体障害者スポーツ大会」は1964年の東京オリンピックの後に開催された東京パラリンピックの成功を受け、翌年の国体の後に第一回大会が開催されたことが始まりです。 《全国障害者スポーツ大会開会式の様子の写真1枚あり》 A パラリンピック パラリンピックは、競技性を重要視した大会となっています。パラリンピックの語源も今では、IOC(国際オリンピック委員会)が、「パラレル(Parallel、平行)+オリンピック(Olympic Games)」つまり、もう一つのオリンピックという解釈をし、ソウル大会(1988年)から、正式名称とされています。 パラリンピックは、イギリスにあるストーク・マンデビル病院内で行われた、「ストーク・マンデビル競技大会」(1948)が始まりと言われています。そこでは、第二次世界大戦後の多くの傷病兵を、負担を伴う手術をせずに、〜ここまで12ページ〜 13ページ リハビリとしてのスポーツで、機能回復をする事を目的としていました。その後国際委員会が組織され、第一回のパラリンピックである「国際ストーク・マンデビル競技大会」が開催されました。 競技種目は全国障害者スポーツ大会とは若干異なっており、ボッチャやチェアスキーなどの、障害者固有のスポーツも種目となっています。 《ロンドンパラリンピック開会式の様子(2012年)の写真1枚あり》 2.障害者スポーツの紹介Part1(全国大会正式種目) 障害者スポーツには様々な種目があり、スポーツのルールを変えずに一般の競技と同じように行えるスポーツもあります。一方、様々な障害に合わせたルールを取り入れて行われるスポーツもあります。また、障害の状態に合わせて独自に開発されたスポーツもあります。 ここでは平成23年に東京で開催された全国障害者スポーツ大会の正式種目である19競技を紹介します。 A 陸上競技 走種目を主としたトラック競技、跳躍や投てきを主としたフィールド競技、マラソンなど競技場外を走るロードレースがあります。 障害者の身体機能に合わせて開発された障害者特有の種目と、一般の競技ルールを工夫することにより行う種目がありますので、それぞれ分けて紹介します。 〜障害者特有の種目〜 ≪車椅子マラソン≫競技の写真1枚あり カーボンやチタン等で作られた極めて軽い「レーサー」と呼ばれる車いすで行うロードレースです。トップ選手になると平均時速30km超、42.195kmを1時間20分台で駆け抜け、下り坂では時速50kmを超えます。(参考:日本身体障害者陸上競技連盟HP) ≪ビーンバッグ投げ≫競技の写真1枚あり 車椅子利用者が行う競技です。乾燥した大豆等をいれた12cm四方150gの袋(ビーンバッグ)を投げて距離を競います。円盤投げのサークルを使って、車いす等を固定して座った姿勢から投げます。足にビーンバッグを乗せて蹴りだすことなども含めて投げ方は自由です。 (参考:公益財団法人日本障害者スポーツ協会HP。『以下、障害者スポーツ協会HP』) 14ページ ≪スラローム≫競技の写真1枚あり 車椅子利用者が行う競技です。 全長30mの直走路に置かれた赤白の旗門を前進、後進等しながら通過し、そのタイムを競い合う競技で、旗門を倒したら1本につき5秒が加算されます。 平成20年度から、時速の差が勝敗に有利に作用しないように工夫されたため、車椅子と電動車椅子(時速4.5km以下、時速6.0km以下)が一緒に競っています。 〜ルールなどが工夫された種目〜 ≪短距離走≫競技の写真1枚あり 100m走では2コースを使っても良いなど、コース外れによる失格が緩和されています。 視覚障害者の50m競走では、フィニッシュライン後方で鳴らす音源等を頼りに走ったり、100m走以上の距離については伴走者が認められています。(参考:障害者スポーツ協会HP) ≪走り幅跳び≫競技の写真1枚あり 通常の走り幅跳びのルール同様、助走をつけて遠くへ跳ぶ能力を競います。視覚障害者は、大きな踏切板を使い、声による誘導を受けて競技します。(参考:障害者スポーツ協会HP) ≪ジャベリックスロー≫用具の写真1枚あり 通常のやり投げと同様に、3回投げてその距離を競います。 ターボジャブと呼ばれるプラスチック製で先端が柔らかく、安全な用具を使用して、やり投げのルールにより飛距離を競います。身体障害者や知的障害者など幅広く行われます。 (参考:滋賀県障害者スポ―ツ協会HP) B 水泳 通常の競泳と同様に自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライとリレー、メドレーリレーがあります。身体障害、知的障害のある選手が、個人の能力を平均化するため男女別、年齢別、障害の種類や程度、運動機能によって、27区分に細かく分かれて競います。 障害に応じてさまざまな工夫がされており、水中からのスタートや浮具の使用が認められたり、視覚障害の選手にはタッピング(壁を知らせる為の合図)を行なったり、聴覚障害の選手には、出発合図員のピストルに連動したランプの光でスタートの合図をしたりします。 (参考:一般社団法人日本身体障がい者水泳連盟HP) 《競技の写真2枚あり》 15ページ C アーチェリー 通常のアーチェリーと同様に「リカーブ部門」「コンパウンド部門」があり、肢体に障害のある選手が、50m・30mラウンドと30mダブルラウンドで競技を行います。 障害の程度により3つに区分されて競技を行います。 (参考:日本身体障害者アーチェリー連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 D 卓球 通常の卓球とほぼ同じルールで行われますが、車椅子の選手の場合にはサーブがサイドラインを横切らないように行わなければならないという規定が設けられています。 肢体不自由、聴覚障害、知的障害、精神障害のある選手が出場します。 (参考:日本肢体不自由者卓球協会HP) 《競技の写真1枚あり》 E サウンドテーブルテニス ネットと台の間の球が通過できるスペースをラバーの貼っていないラケットを使用し、中に音の出るよう金属球が入ったボールを転がすように打ち合う競技です。 視覚障害、知的障害のある選手が出場します。選手は全員アイマスクを着用したり、サービスの時の「行きます。」「はい。」という掛け声も特徴です。 「全国障害者スポーツ大会」では、第一回大会から「盲人卓球」という名称で正式種目となっていましたが、2002年に「サウンドテーブルテニス」と改名されました。 (参考:日本視覚障害者卓球連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 F フライングディスク [ディスタンス(距離)競技] [アキュラシー(正確さ)競技] フライングディスクを使う通常の競技(10競技)の中からアキュラシー(正確さ)とディスタンス(距離)を身体障害、知的障害のある選手が競います。ディスタンスについては男女別、及び立位と座位の4区分に分かれて行います。 (参考:日本フライングディスク協会HP) 《競技の写真2枚あり》 16ページ G ボウリング 通常のボウリングと同様のルールで知的障害のある選手が、男女別に少年、成年、壮年に分かれて4ゲームでの総得点を競います。(参考:障害者スポーツ協会HP)  《競技の写真1枚あり》 H バスケットボール 通常のバスケットボールと同様のルールで、知的障害のある選手が1チーム5人の男女別で競技します。(参考:障害者スポーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 I 車椅子バスケットボール コートやボールの大きさ、ゴールの高さは通常のバスケットボールと同じで、身体障害のある選手が車椅子を使用し、て行います。 特別なルールとして、ダブルドリブルが無いこと、障害レベルによって定められた1.0-4.5の持ち点があり、試合中5人の持ち点合計が14.0を超えてはならないこと、などが定められています。 (参考:日本車椅子バスケット連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 J ソフトボール 通常のソフトボールとほぼ同じルールで、知的障害のある選手が1チーム9人で男女の別なく行う競技です。 (参考:障害者スポーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 K グランドソフトボール 視覚障害者の行う野球です。 視覚障害のある選手が1チーム10人(指名打者を採した場合は最大12人)で男女の別なく、ハンドボールに似たボールを使用し、ボールの転がる音を頼りに行う競技です。 10人のうち4人以上は全盲の選手で全員がアイシェイド(目隠し)つけます。ピッチャーは全盲の選手でキャッチャーの掛け声や手の叩く音を頼りに、ボールを転がして投球します。全盲選手がぶつかるのを避ける為、走塁用ベースと守備用ベースが分かれています。 以前は、盲人野球と言われていましたが、(平成6年)にグランドソフトボールと名称が変わりました。(参考:全日本グランドソフトボール連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 17ページ L バレーボール 身体障害、知的障害、精神障害、のある選手が出場します。 聴覚障害、知的障害のある選手は、通常の6人制バレーボールとほぼ同じルールで男女別に競技を行います。知的障害者の部ではネットは中学生と同じ高さになっています。(男子:2.30m 女子:2.15m)(参考:障害者スポーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 M サッカー 通常のサッカーと違い、知的障害のある選手が男女を問わず、ハーフタイム10分を挟んで前後半各30分を競います。(参考:日本知的障がいサッカー連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 N フットベースボール 通常のソフトボールを基本としたルールで、知的障害のある選手が1チーム9人(指名選手を採用した場合は10人)で男女の別なく行う競技です。 バットやグローブは使わずに、ピッチャーがサッカーボール(ゴム製)を転がし、キッカーがそれを蹴ってプレーします。両手でボールを持ち、股の下から転がして投球します。 (参考:障害者スポーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 O 視覚障害者柔道 ルールは一般の柔道とほぼ同じで、障害の程度で区別せず、体重別で行われます。 試合は両者がお互いに組んでから主審が「はじめ」の宣告をし、試合中両者が離れたときは主審が「まて」を宣告し、試合開始と同じ状態から再開します。また、場外規程は基本的に適用しません。 日本では、1988年ソウルパラリンピック大会から正式種目になり、さらに、2004年のアテネパラリンピック大会からは女子の競技が正式種目になりました。(参考:日本視覚障害者柔道連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 18ページ P 盲人マラソン 伴走者(ガイドランナー)と一緒に走ります。 競技性を持った大会では、障害の程度が成績に影響するため 「障害クラス分け」を行う場合があります。(参考:日本盲人マラソン協会HP) 《競技の写真1枚あり》 Q 車椅子テニス 車いすテニスは「ツーバウンドまでに返球」が認められている以外は、一般のテニスとほぼ同じルール・用具で行われます。素早く向きを変えてボールを打ち返す位置につくため、軽量で、2つの左右の車輪の上部が内側にハの字のように傾斜した競技用車いすが用いられています。小さな補助輪もついています。 1992年のバルセロナパラリンピックより正式競技として行われています。 (参考:日本車いすテニス協会HP) 《競技の写真1枚あり》 R フロアバレー 基本的なルールは6人制バレーボールと同じです。大きな違いは、ボールをネットと床との間を通過させて相手コートに打ち返す競技です。 フロント競技者は必ず「アイシェード」を付け、バック競技者は視覚障害がない人や、視覚障害があってもボールの動きが見える人が担当します。 (参考:日本フロアバレーボール連盟HJP) 《競技の写真1枚あり》 S 障害者スキー アルペンとノルディックの2種目があります。障害の程度によってクラス分けが行われ、障害によって「アウトリガー」(ストックの先に小さなスキーがついた用具)や、「チェアスキー」(1本のスキーの上にいすをセットしたもの)を用いて競技を行います。 視覚障害のB1クラスでは、黒のゴーグル装着とガイド(伴走者)が義務づけられ、ガイドは声(拡声器や無線の使用は可)による誘導のみが許され、選手との身体的な接触は認められていません。 (参考:公益財団法人日本障害者スポーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 19ページ 3.障害者スポーツの紹介Part2(全国大会オープン競技) 全国障害者スポーツ大会での正式な競技ではありませんが、誰でも参加できるスポーツとして、障害のあるなしに関わらず楽しめるスポーツをオープン競技として実施しています。 2013年に開催された東京大会の種目を中心に紹介します。 A ウィルチェアーラグビー 1チーム4名で行う、車いすで行うラグビーです。 車椅子利用者が、専用の車椅子を使って、バレーボールと同じサイズのボールを使い、バスケットボールコートで競技が行われます。通常のラグビーと異なり、ボールをひざの上に置いて前進することや、前方へのパスが認められています。タックルは、相手の車椅子に自分の車椅子を衝突させたり引っかけたりすることにより行います。 2000年のシドニーパラリンピックからパラリンピックの公式競技となりました。 (参考:日本ウイルチェアーラグビー連盟HP) 《競技の写真1枚あり》 B グラウンド・ゴルフ 通常のゴルフと違い、ホールポストという輪の中にボールを入れるゴルフです。クラブとボールは既定の範囲内で工夫する事が出来るため、車椅子用のクラブ、音の出るボールなどがあります。 昭和57年に鳥取県東伯郡泊村生涯スポーツ活動推進事業の一環として、泊村教育委員会が中心になり考案されたスポーツです。(参考:公益社団法人 日本グランドゴルフ協会HP) 《用具の写真1枚あり》 C 車いすフェンシング 通常のフェンシングとルールや道具は変わりません。 お互いの車椅子を「ピスト」という装置に競技者の腕の長さに応じて固定します。上半身のみで競技を行います。 1960年の第1回ローマパラリンピックから正式競技種目となっています。 (参考:日本フェンシング協会HP) 《競技の写真1枚あり》 D ゴールボール 視覚障害者が行う競技です。バレーボールコートの両端にゴールがあり、1チーム3名のプレーヤーが全員アイシェード(目隠し)をし、鈴入ボール(1.25kg)を転がすように投球し合って、相手ゴールにボールを入れることにより得点します。 パラリンピックでは正式種目です。(参考:日本ゴールボール協会HP) 《競技の写真1枚あり》 20ページ E 視覚障害者ボウリング 通常のボウリングとルールは一緒です。障害の程度によって、B1〜B3のクラスに分かれます。B1〜B2クラスは、方向確認のためのアプローチに設置したガイドレールをたどって投球できます。ボールの軌道や残ピンなどの情報は、補助者から伝えられます。   2001年に国際統一ルールが決められました。(参考:全日本視覚障害者ボウリング協会HP) 《競技の写真1枚あり》 F 障害者シンクロナイズドスイミング 音楽に合わせて行フリールーティン(自由演技)のみ行い、採点はなく、競技審査員による講評が行われます。プールの底に足を付いても、歩いても構いません。障害者であれば男女年齢を問わず出場できます。(参考:京都障害者スポーツ振興会HP) 《競技の写真1枚あり》 G スポーツチャンバラ 知的障害者の行う競技です。得点は、面、小手、胴など剣道と同じです。空気の入った剣を使用しているので、安全に行うことができます。短剣、小太刀、長剣など様々な剣で打ち合います。 1971年に「スポーツチャンバラ」として発足しました。 (参考:公益社団法人日本スポーツチャンバラ協会) 《用具の写真1枚あり》 H スポーツ吹矢 身体、知的、精神の3障害が参加できる競技です。5m〜10m離れた円形の盤に、息を使って矢を放ち、その得点を競います。5級から6級まで設けられた段級位毎に距離が異なります。矢筒は120cmあり、33cm四方の的に20cmの矢を当てます。的は中心の白い部分が7点、一番外側の黒い部分が1点です。5本の矢を吹きます。(参考:社団法人日本スポーツ吹矢協会HP) 《用具の写真1枚あり》 I 精神障害者フットサル コートの広さ、ボール、ルールについては、ほとんど通常のフットサルと同じです。ただし、通常は1チーム5名ですが、女性が入る場合は6名で競技が可能です。 フットサルの競技の簡略化や娯楽化を図る意見がありましたが、ノーマライゼーション重視で、厳格なルールのままであることに大きな意義がある競技です。 《競技の写真1枚あり》 21ページ J ダーツ 障害者であれば、男女問わず出場できます。競技では、円が20分割で62か所の得点の異なるエリアがあるダーツボートが正式な的となります。車椅子の場合は通常よりもボードが低く設置されています。(通常は床面から173cmですが、車椅子の場合は133cmになります。) (参考:社団法人日本ダーツ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 K 手のひら健康バレー 身体障害者と知的障害者が出場できます。立って行う競技と、椅子に座りながら行う競技があり、車椅子でも参加できます。ネットを挟んで3人づつ、全部で6人が一チームになります。ボールを手のひらで打ち、ラリーの回数を競います。 バレーボールが盛んな東京府中市の、老人クラブから全国に広まりました。 《競技の写真1枚あり》 L ハンドサッカー 主に肢体不自由の方が選手として参加します。フィールドプレイヤー、スペシャルシューター、ポイントゲッター、ゴールキーパーの4つのポジションがあり、それぞれの運動機能に応じてポジションが決められています。7名の選手でボールを運びシュートします。ボールの保持が困難な選手は、体や車椅子にあたった時点で保持しているとされます。 (参考:日本ハンドサッカー協会HP) 《競技の写真1枚あり》 M ブラインドサッカー 視覚障害者が参加します。競技中のプレーヤーは視力の差を公平にするためにアイマスクを着用します。ボールには特殊な鈴が入り音がします。ボールがコートの外に出る事がないよう、両サイドライン上に1mほどの高さのフェンスが並んでいます。試合中ボールを持った相手に対し「ボイ!」と声を出すことがルールです。晴眼者、弱視者のポジションがあり、試合中のプレーヤーへ「声のガイド」が許されています。(参考:日本ブラインドサッカー協会HP) 《競技の写真1枚あり》 22ページ N アダプティブローイング(ボート) 身体障害者が行います。障害者のボート競技は、アダプティーローイングと呼ばれています。シングルスカルとダブルスカル、舵手付フォアの3種目が1000mの距離で行われます。 2008年の北京パラリンピックでは正式種目とされました。 (参考:NPO法人 日本アダプティーブローイング協会HP) 《競技の写真1枚あり》 O ボッチャ 主に脳性麻痺などの運動能力に障害がある方向けに考案された種目です。パラリンピックの正式種目になっています。個人戦とチーム戦(2×2、3×3)で行います。ジャックボールという白いボールに、出来るだけ近づける競技です。自分で投球出来ない人でもランプスという雨どいのような道具を用いて投球できます。 1988年のソウルよりパラリンピック正式種目です。bottia(ボッチャ)は古代ギリャ語で「投げる球」という意味です。(参考:日本ボッチャ協会HP) 《競技の写真1枚あり》 P ユニカール 主に知的障害者の方が参加します。カーリングの屋内用として、できたスポーツです。マットの上を、プラスチック製のストーンを滑らせて行いますので、場所や季節に限らず行えます。 1チーム3名の選手が、それぞれのストーン6個を先行と後攻の順に交代にカーペット(2m×10m)の上を滑らせるように投げ、相手の球を目標地点に、より近付ける事を競うスポーツです。(参考:日本ユニカール協会HP) 《競技の写真1枚あり》 23ページ 4.障害者スポーツを支える 一般のスポーツと同様、障害者スポーツも、障害者スポーツ指導員など多くのボランティアや様々な組織によって支えられています。 今回の事例集作成にあたり、パラリンピック等で活躍する車いすスキーヤーを支えるチェアスキーの開発の第一人者の方や、障害者スポーツの審判員として長く活躍してこられた方、お二人に障害者スポーツについてお話を伺いました。 (1)チェアスキー開発物語 〜車椅子以外にもエンジニアにできることがあるのでは〜 ・神奈川県総合リハビリテーションセンター研究部リハビリテーション工学研究室 沖川悦三(おきかわ えつみ)さん《ポートレート写真あり》 大学工学部の機械科の卒業研究で、車椅子をテーマにした卒業論文を書きました。その後、神奈川県総合リハビリテーションセンター(以下「神奈リハ」)に就職し、車椅子の研究は現在まで続けています。就業した当初は、車椅子の開発から始めましたが、「これ以外にもエンジニアが関わる余地があるのではないか。」と考えていました。その後、私達は車椅子を利用する人達から、スキーが出来なくなりつまらないという話を聞きました。その頃の日本では、既に障害者スキーが始まり、軽度の障害者は手にアウトリガーを持ち、立って滑っている人がいました。そこから、車椅子利用者にも専用の用具があればいいのではないかと考えました。エンジニアとしての発想で、スキーをやりたい人と道具の存在があれば、障害の克服が実現できると思ったことから開発が実際に始まりました。 《沍^機1号機の写真あり》 70年代後半がチュアスキーの始まりです。僕が来たころは、既に「沍^機」でスキーを楽しんでいる人がいました。車椅子は左右に車輪がついていますので、最初のチェアースキーは、両輪がスキーになったような二本のスキーの形で開発されていました。沍^機を作ったのは、神奈リハの田中修さんで、職員皆でワイワイ作ろうではないかという状況であったと聞いています。 沍^機1号機は、そのままでは止まらないし、曲がれない。次の段階ではこれではだめだということで、サーフボードを使って2号機を作りました。しかしサーフボードは海の上ではいいのですが、雪の上では抵抗が大きすぎて動かない、滑らないのです。 24ページ 《型機の写真あり》 一本のスキー板にした型機は、スキーのスポーツとしての楽しみを優先しました。手に持つ補助以外は椅子とショックブソーバーとスキーしかありません。あとは乗る人が自分の体でコントロールします。いわゆる本当のスキーになりました。 三型機は、ひざの代わりになる衝撃吸収装置の性能を上げました。さらに座席の下に空間を作り、リフトにも簡単に乗れるようになりました。アウトリガーについては当初からあまり変わっていません。スキー自体は20キロとかなり重いので、運ぶにはかなり腕力が必要です。でも、四肢麻痺の人もやっていますよ。 《バンクーバー・モデルの写真あり》 パラリンピックの選手達が作っているものはほとんど私の設計したものです。2014年のソチ大会もそうです。もともと、日本の選手の為に作っていたから海外のメディアには内緒にしていました。でも、性能が良いので、海外の選手からも乗りたいという声が出てきました。 バンクーバーオリンピックの時は、出場選手の3〜4割が日本製です。メダルは30個ですが、そのうち13個が日本製のスキーを使っている人がとっています。私達と共同研究しているメーカーさんが設計と分析を担当し、車いすメーカーが製作します。 前は、設計から製作まで全部自分たちでやっていました。最終的には車椅子メーカーで仕上げてもらいましたが、自分たちで、パイプも切って溶接し、シートも手作りしていました。長野パラリンピックの時に、選手の強化対策で国が大々的に協力してくれ、できるだけ良いものを作って欲しいという要望がありました。スキー場も、それまでは障害者にあまり来てほしくないというところが多かったものが、変わりました。2020年のオリンピック主催国になるということで、障害者の環境はもっと良くなると思います。 チェアスキーについては、これ以上良いものはないというところまで作りましたが、今後は小さい細かいところを多少調整していこうと思います。重度の障害の人に楽しんでもらえるようなものは他にないか、子供用のためにもっと沢山作れないか、ということも考えていきたいです。 障害のある人がスポーツをする時は、特別何かをしなくてもスポーツができるような環境があればいいですね。一番は気兼ねなく使えることです。あえて作るのは資金も必要になるので、構造が不便な施設であっても、海藻などの際に新しい配慮をすることを考えればいいことだと思います。スポーツ施設には、障害者の人は行きたいから行くのです。そこを理解していない人が多いようです。言葉での啓蒙もありますが、いろいろの状態の生涯の人と実際に接していないと、スポーツ施設の人は分からない場合が多いのではないでしょうか。今は、健常者の初心者より良いと言われることも増えてきましたが。そういう話を聞きますと、できないことをしに行っているのではなく、できることをしに行っているのだ、ということがようやく普及されてきたように思います。 25ページ (2)競技審判として関わって ・日本車イスツインバスケットボール連盟規則審判部部長 松元健(まつもとたけし)さん 《ポートレート写真あり》 車いすツインバスケットボールの誕生 車椅子ツインバスケットボールは、下肢のみではなく、上肢にも障害のある重度障害者でも参加できるように考案されたスポーツです。車椅子バスケットボールをやりたいという声は多かったのですが、正規のゴール(高さ3.05メートル)にボールが届かないとか、早い動きについていけないといった理由で参加できなかった人がたくさんいました。そういった人たちにとって、車椅子ツインバスケットボールは、まさに画期的なスポーツの誕生でした。 誰にでもできるスポーツとしてのルール作り リハビリテーション体育としても、運動機能の向上に効果があることが実証されていたツインバスケットボールは、全国各地にあるリハビリセンター毎の独自のルールで行われていました。そのルールを統一することから始めました。 (ボールの統一) ボールを自身でつかめない方が多いので、当時は、小学生のミニバスケットボールで使うゴムボールを使うことにしました。(現在は5号のゴムボールを使用。) (ゴールの統一) 正規のゴールにボールが届かない人の為に、フリースローサークルの真ん中に高さ120センチのリングを作りました。リングが二つで「ツインバスケットボール」なんです。 《リングが二つあるゴールの写真あり》 この、下のリングを使う人達を中心にものごとを考えていこうというのが、ツインバスケットボールの精神です。上のリングに届く人たちは、「車イスバスケットボール」を行いますが、ツインバスケットボールの主役は、上のリングに届かない人達なんだ、と考えています。そこがこの競技の一番大切なところです。競技規則もその精神に基づいて作成しています。 障害者スポーツ(団体)の魅力 今、ツインバスケの普及活動をしていますが、主にリハビリテーションセンターを訪問して行っています。これからリハビリテーションセンターを退所されて地域で生活を始める人に対し、各チームが訪問して普及活動をしています。訪問することによって、入院している方々と一緒にバスケットを楽しみます。その後の意見交換会では、「どうやって一人暮らししているの?」とか「どうやって働いているの?」「トイレはどうしてる?」等の質問が出てきます。それがツインバスケットの魅力の一つかなと思います。自立されている方が訪問することで、自分の困っていることのヒントがもらえる。一方で、競技をやっている選手は、色々な所へ遠征することを通してエンパワメントが期待できるわけですね。スポーツを通したピア・サポートだと思います。 利用しやすいスポーツ施設 ツインバスケをしている四肢麻痺の方々という事で考えると、配慮して欲しい施設は、トイレ、スロープ、自動販売機、車イスで入れる更衣室、それと、ご自身で運転される方もいるので、雨をよけながら止められる駐車場ではないでしょうか 私にとってのスポーツと仕事 私は、小学生のころからバスケットに関わっていますが、もしバスケットに関わっていなければ、職場として神奈川県リハビリテーションセンターにはいなかったですね。  私が今職能課で担当している業務は、身体障障害者の在宅雇用支援なんです。職能課に来て今年で9年目になります。来た頃には、無職の障害者の方が多かったんです。でも、入院患者に対して「諦める必要はないよ。」ってことは、今言えるんです。在宅で働く手法があるし、その為にスキルアップする場もある。その場も、色々と県と交渉をしながら作っていただいたんです。そして、仕事からまたスポーツにつながる。そういった幅広い支援ができていると思っています。 27ページ ご協力施設一覧 ENERGETIC FITNESS(イー・フィットネス) IHSMテニスガーデン綾瀬 INSPA新横浜 NPO法人アラジンクライミング アディダスフットサルパーク横浜金沢 神奈川レジャーランボウル厚木店 クライミングジム ビッグロック日吉店 グリーンフィールド・ライディングスクール こころDANCE SCHOOL コスタ横浜 社会福祉法人 こどもの国協会 コロナフットボールクラブ湘南平塚 相模ファーストレーン サンヨーガーデンライディングクラブ 座間卓球センター 湘南アクターズスクール 湘南とうきゅうボウル 株式会社湘南マリーナ 新杉田ボウル スウィングスタジアム横須賀 杉村ダンススタジオ スノーヴァ溝の口−R246 田園アスレチッククラブスイミングスクール 葉山セーリングカレッジ 武徳館 大舘道場 横浜さくらボクシングジム 神奈川県総合リハビリテーションセンター (50音順) 裏表紙 編集/特定非営利活動法人神奈川県障害者自立生活支援センター 〒243-0035 厚木市愛甲1−7−6 Tel.046(247)7503 Fax.046(247)7508 Eメール:info@kilc.org 発行/神奈川県保健福祉局福祉部障害福祉課